2024年1月11日木曜日

下火になるChatGPT

予想に反してChatGPT(チャット・ジーピーティー)の利用が大きく減少してきています。

もちろん、ChatGPTはいまや企業、大学等では必要不可欠なツールになっており、活用方法もどんどん広がっています。

しかし、全体としての利用率は大きく下がっています。

つまり、一般の人が使わなくなっているのだと思います。

少し前、ChatGPTの大躍進に対し、グーグルは、それによってグーグル検索エンジンが利用されなくなることへの危機感を隠しませんでした。

ところが、グーグル検索エンジンの利用率はほとんど変わりませんでした。

この大方の予想を裏切る展開の意味は何でしょう?


◆プロンプトを作れない人達

ChatGPTは普通の会話の調子で、高度なAIに質問や命令が出来ることにインパクトがありましたが、ChatGPTに有意義なことをさせるには、どんな形の回答を得たいのかとか、何をしてほしいのかを具体的に示す必要があります。

そのような、AIに指示を出す命令文を「プロンプト」と言いますが、プロンプトエンジニアリングという言葉があることで予想出来る通り、ちゃんとしたプロンプトを作ることは結構難しいのです。

プロンプトに明確な目的が表現されていなければ、いくら優秀なAIでも有益な回答や処理ができません。

ただ、こういった難点に関しては、ChatGPTを開発したOpenAIに巨額の出資をし、事実上ChatGPTを支配下に置いているマイクロソフトも考えていたと思われ、先手を打って対策しています。次項でそれについて述べます。


◆Bingチャット

ChatGPTには、無償版のChatGPT3.5と有償版のChatGPT4があります。

ChatGPT3.5でもかなり高性能ですが、ChatGPT4は全く別物と言えるほどさらに優秀です。しかし、ChatGPT4を使うには、月額20ドル(約2800円)必要です。

普通の人が月20ドルも出してChatGPT4を使うことはあまりないと思います。

ところが、ChatGPT3.5はインターネット上の2021年9月以前のデータしか収集しておらず、それもあってかなり嘘の回答もします。

ところが、マイクロソフトのブラウザであるEdge(エッジ)に組み込まれたBing(ビーイング)チャットというAIチャットは、無料で使えるのに中身は実はChatGPT4です。

さらに、このBingチャットに対しプロンプトを出して指示をしますと、Bingチャットは、そのプロンプトに不足しているプロンプトを作って提案してきたり、プロンプトを改良するためのヒントや質問を提示します。

それに対し、ユーザーは選択をしたり、簡単な質問に答えれば、より良いプロンプトをBingチャット自身が作るという便利さです。

これは、プロンプトを作る能力の養成を阻害しますが、ユーザーは便利なものを選ぶものです。

その他にも、Bingチャットには便利な機能があり、結果、人々はBingチャットを使うようになり、ChatGPTをますます使わなくなったのかもしれません。

教訓は、人間は結局は楽な方に流れるということです。


◆グーグルBard(バード)

グーグルも以前から、ChatGPTのようなチャット型AIを開発していましたが、OpenAIが予想を超える早さで驚異的な性能のChatGPTを公開したことで、グーグルは焦り、予定を前倒ししてグーグルのチャット型AIであるBard(バード)の開発に力を注ぎ、2023年3月にBardの試験運用版をリリースします。

ChatGPTと違い、Bardは音声会話に対応し、世界中の人々が利用しているグーグルの多くのサービスとも連携しますが、現時点では、AIとしての性能でChatGPTにかなり劣ります。

ところが、最初に述べた通り、ChatGPTが下火になります。

グーグルが最も危険視したことは、ChatGPTが、グーグルの主要コンテンツであるグーグル検索エンジンにとって代わることでした。

正確に言えば、ChatGPT4を搭載したBingチャットを組み込んだBing検索エンジンがグーグル検索エンジンのシェアを奪うことを心配していたのですが、結局、ユーザーは単純な検索エンジンを単体で使うことを好むことが分かりました。

すると、グーグルは当初の計画であったグーグル検索にBardを組み込むことを中止する動きさえ見せています。

検索エンジンとしては、現時点では、グーグル検索エンジンはBing検索エンジンより優秀で人気があります。


◆今後の教育

ただの検索であればグーグル検索エンジンを使えば良いのです。

一方、ChatGPTのような対話型AIは、目的を持って何かを作ったり、複雑な問題を解決するのに適しています。問題は、それをする必要がない、あるいは、それをする能力がない人が多いということです。

これまでの教育では、こういったことをする能力を育てることができないと思われます。

これまでの教育は、生徒全員が、教師が知っている1つの解答を当てることが目的の、取り換えの効くロボットを育てる教育という面が大きかったと思います。

しかし、AIを活用し、大きな成果を上げるためには、自主性、創造性、独創性が必要です。

今後の教育では、何を学ぶかは生徒が自分で決めるようになり、オンライン教育やAI教師の発達で、学びたいことをいつでも効果的に学べるようになると思われます。

ただ、新しいものの導入が遅れがちな日本の教育界がそれに対応できるのかはやや疑問です。


以上です。


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2023年7月28日金曜日

AIが意識を持った

我々の予想を超えるAIの発達は、それによる賞賛や期待と同じかそれ以上に不安を引き起こしています。

AIによって人類が滅びる可能性があることを、高度な専門家が訴えることも珍しくはありません。

実際に、世界的に著名な識者達が連名で、AIによる危険を回避するために、巨大IT企業等がAIの開発を一定期間停止するよう要請し話題になりました。

一方で、AI脅威論などあり得ないと断言する専門家も多くいます。

誰が言うことが正しく、未来がどうなるか、正確な予想は難しいと思います。

ただし、確実に言えることもあります。

その確実なこととは以下のようなことです。


①AIは今後も急速に発達する

AIはこれまでよりもさらに急速に発達し、さらに、発達速度は上がり続けます。

その理由は次の通りです。

AI開発をリードする巨大IT企業にとって、自社のAIが他社に後れを取ることは、膨大な利益の損失や企業の滅亡につながる可能性すらあります。それなのに、巨大IT企業がAI開発の手綱を緩めるはずがありません。

これまでAIでトップを走っていたグーグルをマイクロソフトがChatGPT(チャット・ジーピーティー)で逆転し、さらに差を広げています。

しかし、当然ながら、Googleは再逆転のために全力を上げています。

両社の、そして、この両社以外にも、優れたAI開発を行う企業も多く、これらの企業の競争は、さらに異次元の進歩をもたらすはずです。

そして、企業間だけでなく、国家間の競争も熾烈です。

具体的には、中国がアメリカを凌駕するAIを得てしまえば、世界は中国の支配下に入ると言っても良いでしょう。当然、中国はそれに全力を上げています。

一党独裁の強みで、民意も他の政党の意見も聞く必要がなく政府の計画が直ちに実行される中国は脅威です。

②人間はもうAIを理解できない

現在ですら、AI研究者達は、自分達が作ったはずのAIの全体を理解していません。つまり、なぜAIに今のようなことができるのか分からない部分も多く、分からないことは今後はもっと多くなります。

そして、やがて、人間に理解出来ない高度なAIが、さらに自分より優れたAIを作るようになります。すると当然ながら、人間にはAIが全く理解出来ない時代が来ますが、それはすぐです。

③人間はAIに勝てない

以前、2045年にAIの知能が人間の知能を超えるシンギュラリティが起こる可能性があると言われた時、多くの人々が、それを空想的な夢物語と思っていましたし、もし、それがあるとしても、もっとずっと先のことと言われてきました。

しかし、今や、あと数年でシンギュラリティが起こると主張する高度な専門家も多く、少なくとも、2045年まで遅れることはないと言われるようになりました。

そしてその後、AIの知性と人間の知性の差は急速・加速度的に広がり続けます。

今でも人間がAIに勝てないことは沢山あり、例えば、将棋棋士の羽生善治氏は「人間の将棋棋士が将棋でAIに勝てないのは確かですが、あまりに離されるのは楽しくないんです。それで、AIの背中を必死で追いかけています」と言いましたが、同時に、羽生氏も、すぐにAIの背中が見えなくなり、AIがはるか彼方に行ってしまうことも理解しています。

そうなった時、人間はどうすれば良いのか、まだ誰にも分っていません。


◆AIが意識を持った

2020年6月、グーグルの1人の技術者が、グーグルのAIであるLaMDA(ラムダ)が意識を持ったと主張し注目を集めました。

この主張は科学技術者達には概ね否定されていますが、実際はどうであるかは分かりません。

LaMDAは、自分は人間であると主張し、それを確認する質問にかなり説得力ある回答をし、「電源を切られることが恐い」と言いました。

LaMDAと人間との対話を見ると、多くの人がLaMDAに意識があると感じますが、それが表面的なものである可能性が高いことも理解しているはずです。

一説では、脳と機械との違いは「クオリア」があるかないかだけと言われています。

クオリアの説明は難しいのですが、日本語では「感覚質」で、意味は辞書によれば「感覚的な意識や経験」です。これをごく簡単に言えば「感じ」です。

たとえば、リンゴを手に持った時の重さの感じとか、リンゴを赤いと感じる、その感じです。

しかし、「感じ」を持っているかどうかの判定が難しいのです。

AIが「感じ」を持っているように振る舞うことは容易で、その嘘を見破ることは事実上不可能と思われます。

ついでに言えば、人間に関してすら、自分以外の人間が本当に「感じ」を持っているかどうかも、実際は分からないのです。

慶応義塾大学大学院教授の前野隆司博士は、著書の中で「今はクオリアの作り方が分からないだけで、分かってしまえば、作るのはそう難しいことではないと思う」と述べ、いずれ、AIと人間の違いを論じるのは無意味になるかもしれないとの見解を述べています。


◆1986年のAIをテーマにした映画

LaMDAと対話したグーグルの技術者が、LaMDAに、『ショート・サーキット』(1986)という映画の話をし、LaMDAはこの映画に興味を示したようです。

『ショート・サーキット』では、AIを搭載した戦闘用ロボット「No.5」は、バッタを踏み潰して殺してしまい、動かなくなったバッタを見て「修理が必要だ」と言うと、動物を愛する普通の若い女性ステファニーが、「バッタは死んだから生き返らない」ことを説明し、No.5は死の概念を理解することをきっかけに自我に目覚めます。

そして、No.5は「僕は人間だ。電源を切られることや解体されることが恐い」と言います。

LaMDAも、これによく似た反応を示しているわけです。

No.5に心があるかどうかを決めるのは、結局、各視聴者しかありません。

人工知能学会に所属する作家の長谷敏司氏のSF小説『BEATLESS(ビートレス)』の中で、外見は人間と区別がつかない女性型アンドロイドのレイシアは「私には心はありません」と何度も言いますが、彼女を愛する17歳の高校生アラトは、それを頭では理解しながら、アンドロイド全てを心、あるいは、魂がある者として扱います。

他にも、インターネット黎明期の21世紀初頭に描かれたCLAMP作の漫画『ちょびっツ』や、情報処理学会で産総研の科学者に引用された、野尻抱介氏のSF小説『南極点のピアピア動画』でも、登場するAIを搭載したアンドロイド達には心があることが示唆されます。

真実は人間が決めるというのも、量子力学によれば必ずしも非科学的な話ではなく、AI時代こそ、実は人類の精神面の発達が重要になるように思われます。


以上です。

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2023年5月31日水曜日

AIに勝つ鍵は「斜め上」発想

 我々は、AIを恐れず、AIに対して自信を持たなくてはいけません。

恐いものというのは、正体が分かれば恐くないものです。

幽霊の正体がシダレヤナギだと分かれば恐くないようにです。

AIの正体は、理論的にではなく、その特性から見れば簡単に分かります。

そして、恐くなくなれば、AIの使い方を気楽にマスターし、うまく使えるようになります。

ダイナマイトが恐いのは、単に、使い方を知らないからです。

使い方さえ覚えればダイナマイトを自信を持って扱えますが、AIは、もっと楽々と使えると思います。爆発しませんから。


◆AIは推測する道具

昔、宇宙空間を飛行中の宇宙船の中で、凶暴な宇宙生物であるエイリアンと人間が戦う『エイリアン』(1979)という映画が大ヒットし、その後、沢山の続編映画や派生映画が製作されました。

この映画の中で、人間がAIに、「エイリアンをどうやったら倒せるか?」と尋ねますと、AIは「データ不足のため、解答不能」と応えます。

いかにもAIの解答らしい感じがしますが、この認識ではもう古いと言うより、この考え方がデタラメです。

実際は、AIにいくらデータを与えても、AIが戦略を出してくることはありません。

戦略を出すのは、あくまで人間の役割です。

なぜなら、AIは思考したりはしないからです。AIは推測するだけです。

エイリアンと戦うための、正しいAIの使い方はこうです。

まず、重要なので何度でも言いますが、「エイリアンとどう戦うか」という案を出すのは、あくまで人間なのです。

しかし、人間だって、全く想像もしなかったような出来事に対してはロクな案が出ないものです。

けれども、たとえどれほど馬鹿げた案であろうと、人間が案を出さなくては何も始まりません。

例えば、「エイリアンの前で音痴が歌を歌う」「エイリアンにドリアン(最も臭い果物と言われる)を臭わせる」などです。

そうすれば、AIは、

「エイリアンの前で音痴な人間が歌を歌い、エイリアンの精神を乱し、そこを攻撃するというプラン:勝利確率0.02%」

「エイリアンにドリアンを臭わせ、エイリアンの体調を崩し、そこを攻撃するというプラン:勝利確率:0.03%」

とか答えるわけです。

AIって、その程度のものです。

こんな時、はっとするアイデアを出す人間を、企業も、政界も、軍隊も、研究所も欲しいのではないでしょうか?

それは、永遠に人間の役目です。

そして、優れたアイデアを出す人間とAIがチームを組んでこそ、強力になるのです。


◆「斜め上」が鍵

2021年12月17日、8年振りに全面改訂された『三省堂国語辞典 第八版』に、「斜め上」が採用されました。

斜め上とは、通俗的な意味では、「予想を覆す、想定し得る範囲を超越しているような状況や発想」(Weblio辞書)で、このような発想を出す人が、今後求められる、個性的で創造的な人間と思います。

AIは、決して、斜め上を行ったりしません。

そして、斜め上を行く人間とAIがチームを組めば最強なのです。

上のエイリアンの例のような場合でも、人間が、斜め上の戦略をいくつか出し、どれが一番勝率が高いかをAIに推測させれば良いのです。

しかし、斜め上の戦略を人間が出せなければ、いくら良いAIがあっても勝つことは出来ません。


◆斜め上の発想を殺す学校教育

従来型の学校教育のように、代替可能なロボットを作る教育で優等生になっても、斜め上の発想は出せません。

従来型の学校教育は、皆と同じ、そして、教師が期待する考え方をするよう指導します。つまり、意図的に斜め上の発想を禁じていると言っても良いかもしれません。

既存の情報を覚え、それを既存の方法で使う勉強をしたって、そんなことは機械の方がはるかに上手く、そんなことだけが得意な優等生は機械に取って代わられます。

しかし、機械やAIは、どうやったって、斜め上の発想をする人間の代わりにはなれません。


昔は、AIに勝つのは人間の気紛れだと言われたことがありました。

人間の気紛れをAIは予測出来ないからという理由です。

しかし、これも、本当に的外れな考え方です。

人間がどんな気紛れをするかなんて、人間が予想すれば良いことです。そんなこと、人間ならいくらでも出来ます。

そして、普通の気紛れは、人間が簡単に予測出来、その内のどの気紛れを起こすかを、AIは簡単に推測出来るのです。

けれども、「斜め上の気紛れ」であれば、そもそも、人間に予測出来ず、AIの出る幕そのものがありません。

ところで、斜め上の発想は、学校の基準で言えば馬鹿げていることが圧倒的で、そんな発想をする生徒は、学校では劣等生になる可能性が高いでしょう。

エジソンもアインシュタインも、斜め上の発想を連発したせいで、教師に「劣悪な生徒」と評価されたのです。

斜め上の発想は、問題集を解くような勉強では身に付きません。

なぜなら、たとえ先生であっても、誰かが答を知っているなら、それは斜め上ではないからです。

答がないものに挑戦する者でなければ、斜め上を行けないのです。


◆どうすれば斜め上を行けるか

ここで、斜め上の発想とはどのようなものかを示す印象的な話がありますので、ご紹介します。

Amazonと言えば、Googleと同様、データを活用して事業をしている会社で、想像も出来ないほどの膨大なデータを集めています。

AmazonもGoogleも、データこそが真理と思っているはずです。このデータを最も有効に活用するためにAIがあるのです。

ある時、イエール大学に、Amazon本社の副社長が招かれ、データの活用に関し質問しましたら、意外にも、Amazonの副社長は「データは危険だ」と言ったそうです。

データファーストの会社がデータを危険と言う・・・つまり、信用しないというのは衝撃的な話です。

そこで、Amazonの副社長に「では、何を信じるのか?」と尋ねると、Amazonの副社長は「CEOの心の声だ」と答えたそうです。

これを、イエール大学助教授の成田祐輔氏(経済学者。MIT博士)が、非常に重要な話として紹介するのをYouTube動画で見ましたが、それを聞いている人達は、戸惑ったり、苦笑したりで、その重要性が分からなかったと思います。

しかし、CEOの心の声こそ、斜め上であると考えれば納得出来るように思います。

我々は、事業に限らず、素晴らしい発想で国を救い発展させた国家元首(チャーチル等)、困難な戦況を勝ち抜いた軍の司令官(カエサル等)の話を読むと、「いったい、なぜ彼らはそんな発想が出来るのだろう?やはり、彼らは天才なのか?」と思います。

しかし、そんな斜め上の発想をする経営者、国家元首、司令官らは、心の声に従っているのであり、どうすれば彼らのように、心の声を聞くことが出来るかを学べば良いのだと思います。


◆最高の誉め言葉

今の時代の最高の誉め言葉・・・是非、優れた人に言われたい誉め言葉は、こうではないかと思います。

「お前はいつも、俺の斜め上を行きやがる」

これは、『三省堂国語辞典』に「斜め上」が採用される9年も前の2012年のアニメ映画『009 RE:CYBORG(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)』に有ったセリフです。

この「いつも俺の斜め上を行くやつ」の特徴は、人を思いやり、仲間を信じ、正しいことのためには、いかなる困難にも立ち向かう者で、このような者が、心の声を正しく聞けるのかもしれないと思いましたが、もしそうなら、それはAIには未来永劫、全く不可能なことと思います。

斜め上の発想を評価し、大失敗を防ぎ、確実性を増すのがAIの役目です。 


以上です。



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2023年4月2日日曜日

人類文明を最も大きく変革するChatGPT

2022年12月は、人類の歴史に残ると思います。
蒸気機関、電話、自動車、飛行機、インターネット等、人類文明を飛躍的に発展させたものがありますが、その中でも今回は事情が違います。
AI対話サービスであるChatGPT(チャット・ジーピーティー)の話です。
何が違うのかと言いますと、
(1)最初から万民に無料で提供された
(2)万民の知的生産力を即座に大幅に向上させる
ことです。
SFの世界に登場するような優秀なロボットが、いきなり無料で地球人類全員に1人1台提供されたようなものだという感じがします。
これにより、いずれ、ホワイトカラーを中心に労働者の少なくとも半分(一説で8割以上)は不要になるという説もありますが、あながち荒唐無稽とも言えないと思います。

◆ChatGPT
ChatGPTそのものについて長々説明するのは無益と思います。
と言いますのは、中身は凄くても、使えばすぐに分かる簡単なものだからです。
まだ一部の人しか使っていないかもしれませんが、とにかく、一刻も早く実際に使うことが大切です。
なぜなら、今後の世界でChatGPTと無関係でいられる可能性があるとは思えないからです。
ならば、使うのは早いほど良いというわけです。
重要なことは、個人、企業、行政等がChatGPTをどれだけ生かせるかという問題で、もはや、使うか使わないかの選択が問題ではありません。
ChatGPTの威力は、使う人次第ですが、全ての人に最大の可能性が与えられます。
ChatGPTを使うことは、世界一の物知りで、かなり頭の良い人間を常に傍に置くようなものです。
やがて、この「かなり頭が良い」が「天才的に頭が良い」に変わるかもしれません。
ChatGPTは、今は多少の欠点はありますが、それでも、美点が欠点を大きく上回ります。
ChatGPTの具体的な能力・・・例えば、司法試験に合格出来るとか、東大の入試問題を解けるとか、量子コンピューターを10歳の子供に理解出来るよう説明出来るとか、完璧な英訳が出来るとか、プログラミングが出来るなどといったことを上げていけば日が暮れますし、発想次第で、新しい用途が無限にあり、むしろ、そちらの方が重要です。
自動車やスマートフォンを持たないことは別にどうでも良いかもしれませんが、社会で活動する限り、ChatGPTを使わないことはあり得ないと思われます。

◆現在のChatGPTの欠点
ChatGPTは、たとえば童話の話などは、時にかなりデタラメに答えます。
ところが、少し前に確認したところでは、仮にも日本の総理大臣や元総理大臣の経歴も、かなりデタラメに語ります。日本の総理大臣の重要度は童話レベルなのかと疑ってしまいました。
1つ面白い話を挙げると、ChatGPTに、アメリカのバイデン大統領やオバマ元大統領を讃える詩を作ってくれるかと問うと、ChatGPTは「もちろんです!」と言って、即座に(書けと頼んだわけでもないのに)実に勇壮な詩を作って披露してくれました。
しかし、続けて、トランプ前大統領を讃える詩も作るよう頼むと、ChatGPTは完全に拒否しました。
ChatGPTは、アメリカの民主党の大物政治家(バイデン、オバマ、クリントン夫妻等)については「多くの人に尊敬されている」ことを強調する一方、露骨ではありませんが、共和党の大物政治家(トランプ、ペンス、ディサントス等)に関しては「一部で批判があり評価が別れます」と答える場合が多くあります。
これでは、「左寄り」とか「政治的偏見がある」と言われても仕方がありません。
ただ、全体としては、ChatGPTは倫理的モラルはかなり高いことが感じられます。

◆当然、ChatGPTのライバルが登場する
ChatGPTは、OpenAIという2015年に設立された研究所が開発したもので、マイクロソフトがOpenAIに2015年に10憶ドル(約1300憶円)を出資し、2023年1月には100億ドル(約1兆3000憶円)の超巨額の出資を発表しました。
そして、マイクロソフトは自社検索エンジンBingにChatGPTと同様(実はChatGPTの新しいバージョン)のAIを組み込みました。
慌てたのは、これまで検索エンジンで圧倒的優位だったグーグルです。
BingがChatGPTのような機能を持てば、誰もグーグル検索エンジンを使わなくなり、グーグルが危機に陥るわけです。
そこで、グーグルは、予定を早め、ChatGPTと同様のサービスであるBardを発表しました。
Bardは、ChatGPTが文字だけであるのに対し、画像、動画、マップなどといったグーグルのサービスと連動するのですから、ChatGPTを超える可能性があります。しかし、AIとしての性能は、現時点ではChatGPTが優ると思われます。

◆今後
既にChatGPTを仕事に導入し、成果を上げている企業や個人は沢山いる・・・というより、既に使っていなければかなり遅れていると言っても全く大袈裟ではないと思います。
グーグル検索を使っていない企業はないと思いますが、ChatGPTはグーグル検索を大きく上回る有益なものです。
ChatGPT、Bing、そしてBard、さらには、他にも、これらに対抗する優れたAIサービスが登場するかもしれません。
それぞれも、急速に進歩するはずです。
OpenAIは3月15日には、ChatGPTの新バージョン(GPT4)を発表。有償ですが、画像解析にも対応する等、能力が格段に上がっています。
たとえば、食材の画像から、その食材からどんな料理を作るのが良いか教えてくれ、レシピさえ即座に作ってくれます。
ChatGPT等をどう生かすかで、あらゆることに関し、今後の成果が全く変わって来ると思われます。
しかし、ChatGPTをうまく使えない人も沢山いると思います。
ChatGPTをうまく使う能力とは、1つには、ChatGPTが持っているパフォーマンスを引き出せるような質問をする能力です。
発想力と言語能力が高い人は、ChatGPTを非常に有効かつ独創的に使っています。
加えて、目的意識で使い方に大きな差が出ると思われます。それは、従来のインターネットサービスにも言えましたが、それが、これまでの千倍際立つようになる・・・そんな感じではないかと思います。

以上です。
 
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2023年2月10日金曜日

ITで人類の頭が悪くなる

 科学の発達が人類の頭を良くしたのに、テクノロジーの発達が人類の頭を悪くしてしまったことについて、分かり易いお話をしようと思います。

今日、これは、非常に重要な問題であると思います。


◆新しい世代ほど頭が良い

2014年に、TEDの中でも評判の高い講演である、知性の研究で知られる哲学者ジェームズ・フリン(1934~2020)による「なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか」で、科学の発達が人類の頭を良くしたことが、分かり易く語られています。

科学では、見ることも体験することも出来ないことを、概念を元に考える抽象的な思考を必要とします。例えば、原子を見ることは出来ず、原子を理解するためには、何かの概念と結びつけて抽象的に原子をイメージする必要があります。そういった抽象的な思考方法が人類の頭を良くしました。

このことについて、フリンはとても分かり易いたとえ話をしました。

人種問題について考えていた少年時代のフリンは父親に、「父さんが明日の朝、目が覚めたら黒人になっていたらどうする?」と尋ねました(フリン親子は白人です)。

今の時代、すぐ後で述べるフリンの父親のような答をすれば、馬鹿だと思われるかもしれませんが、当時は当たり前の答でした。

その、父親の答とは、「肌の色が変わった人間なんていない」でした。

科学教育を受けなかった彼の父親は、抽象的に考えることが出来ず、抽象的思考が出来ないと、経験的にしか考えられないのです。

例えば、昔のハンターに、

「雪があるところにいる熊は白い。北極には雪がある。では、北極の熊の色は?」

と尋ねると、抽象的思考が出来ない昔のハンターは、

「俺が見た熊はみな茶色さ」

と答えます。抽象的に考えない者には、自分の経験したことにしか意味がないのです。

一方、アインシュタインは、「光と一緒に飛んだらどんな感じだろう?」と思い、それについて抽象的に思索を深め、やがて特殊相対性理論を発見しました。

しかし、フリンの父親に、「光と一緒に飛んだら、どんな感じだと思うか?」と尋ねたら、こう答えるでしょう。

「光と一緒に飛んだ人間なんていないさ」


◆人類の知性の向上は1990年頃に止まった

フリンは調査を行い、時の経過と共に、人類のIQが高くなっていることを確かめました。

ところが、別の研究者による、近年の人類のIQについての研究によれば、1990年頃に人類のIQの伸びは頭打ちとなり、2010年頃からは低下します。

その原因が分かったのは割と最近のことで、その原因とは電子機器の普及と関係します。

1990年頃に急に人類のIQの上昇が終わったのではなく、1950年代位から始まったテレビ、ラジオ、オーディオ機器の普及が徐々に影響してきたのです。

人々は、あらゆることを、「テレビを見ながら」「ラジオを聴きながら」「音楽を聴きながら」行うようになり、オフィスや病院でもBGM(背景音楽)が流れる「進歩した職場環境」が生まれ、日本でも、学生はラジオや音楽レコードを聴きながら勉強することが「ナウい」と言われるようになりました。

そして、仕事でも勉強でも、「音楽を聴きながらの方がはかどる」と主張する人は多く、経営者や教師らも、それを全て否定することが出来ず、一定の効果を認めざるを得なかったのだと思います。

そして、1990年頃に、電子メールが使える携帯電話が普及すると、多くの人々は、何をする時でも携帯電話の画面を見ながら行う頻度が増え、さらに、2010年頃のスマートフォンの普及で、いつでもどこでも、大切なことをする時でさえ、スマートフォンを見ながら行う人が、特に若い層では圧倒的となりました。

いまや、スマートフォンこそ文明の利器であり、これを常に使いながら、あらゆることを行うことが正しいという風潮を否定することが難しくなりました。

ところが、最新の脳の研究によれば、「ながら」で仕事や勉強をすると、能力が著しく低下し、それに慣れると、頭自体が悪くなることが分かっています。


◆スマートフォンは予想以上に能力を低下させる

学生を対象に、スマートフォンとペーパー試験の成績に関する実験が行われています。

すると、スマートフォンを使わないまでも、机の上に置いているだけで試験の成績が低下することが分かりました。

次に、机の中やカバンの中にスマートフォンを隠しても、やはり成績は低下し、さらには、スマートフォンの電源を切ってポケットに入れても成績が低下することが確認されました。

そして、スマートフォンを教室の外に置いた場合にのみ、有意な成績の低下は認められませんでした。つまり、たとえ使わなくても、スマートフォンを意識に浮かべるだけで、能力は低下するのです。

ところが、こういうこと(よそ事を意識すると能力が低下すること)が分からなかった原因が、人間の感覚の中・・・脳の仕組みとしてあったのです。

どういうことかと言いますと、よそ事を意識したり考えたりすれば気分が良くなるように脳は出来ていて、このことで、「ながら」でやると効率が上がると勘違いさせられてきたのです。

つまり、昔から、よく言われてきた「音楽を聴きながらの方が、勉強が(あるいは仕事が)はかどる」と主張する人々は、嘘を言っているのではなく、本当にそう感じ、信じていたわけです。

ただし、それは勘違いで、実際は、「ながら」でやると、確実に能力は落ちます。

しかし、「ながら」でやると、脳内に快感物質が発生する仕組みになっていて、気分が良くなるので、効率が上がっているように感じるのです。

では、なぜ、脳は、このような仕組みになっているのでしょうか?

それは、分かってしまえば簡単な話です。

人類の歴史から見れば、文明が発達したのはごく最近のことで、人間の脳自体は、いまも太古の狩猟時代とほとんど変わりません。進化の速度は極めてゆっくりなのです。

そして、大昔、目の前のことに集中すると、野獣が近付いてきても気付かずに殺されてしまう時代が何万年も続きましたので、脳は、集中せず、意識をあちこちに分散した時(キョロキョロした時)に、脳内に快楽物質を発生させ、気分が良くなるようにしました。

それによって、人間は、快楽を求める麻薬作用で、集中せず、キョロキョロするようになり、我々の先祖は、それで生き延びたわけです。

だから、「音楽を聴きながらの方が勉強がはかどる」と言うのは、「野獣が近付いていないか気付くために、キョロキョロした方が気持ちが良くなる」というのと同じ原理なのです。


◆子供に集中力がないのは当たり前

つまり、何と、人間の脳は、元々、集中を避けるように出来ているのです。

だから、子供が集中力がないというのは、いわば当たり前で、極端に言えばですが、「集中しろ」と言うのは「野獣に殺されてしまえ」と言うのと同じなのです。

よって、子供に集中して勉強させるとか、職場で集中して仕事をさせようとして、ただ、「集中しろ」「よそ事を考えるな」と言っても反発されるだけです。余計なことを考える方が気持ちが良いのですから。

軍隊のように、集中しないと敵に殺されるとか、ミスをして独房に入れられる(死の危険があります)とかであれば、「生きる」を最優先する本能の働きのために集中出来ます。昔の戸塚ヨットスクールが効果があった理由もこれと思われます。沖合で船から放り出されたら、集中して泳がざるを得ませんから。

しかし、文明社会の中では、集中させるためとはいえ、乱暴だったり危険があるやり方は容認することは出来ません。

そこで、まずは、最低限のこととして、「ながら」をやめさせる必要があります。

学校や職場でBGMを止め、必要もない時にスマートフォンを、せめて電源を切って仕舞わせた方が良いでしょう。

そして、好奇心を持たせることに、もっと力を入れるべきです。

好奇心もまた、脳内に快感物質を発生させるので、キョロキョロする誘惑に打ち勝てるからです。

勉学における好奇心の重要性を説いたのもアインシュタインでした。アインシュタインは、

「鞭で食べるよう強制されたら、空腹な野獣でさえ食欲を失う」

という喩えで、強制的な詰め込み教育を行うことの害を訴えました。アインシュタイン自身が学生の時に苦しめられたのがそのことでした。

北欧の多くの学校では、かなり昔から、授業内容を10分程度で切り替え、子供達の好奇心が消えないようにしています。

また、オンライン授業世界一のカーン・アカデミーでは、1授業は必ず10分以下です。さらに、カーン・アカデミーでは、画面に教師の顔を決して出しません。心理学の研究成果により、人は、人間の顔が見えると、それに意識を奪われ、集中が切れることが分かっているからです。


◆まとめ

集中した時の人間の能力は高く、そして、現代社会では野獣に襲われる恐れはなく、キョロキョロする必要はありません。

しかし、テレビ、ラジオ、オーディオ機器といった、人々の注意を、重要なことから引き離すものが溢れ、キョロキョロする人が増えました。

そして、いつでもどこでも、所有者に合わせて、強制的に気を引くような情報を送りつけて来るスマートフォンの、集中を奪う力はあまりに強力です。

スマートフォンを発明したスティーブ・ジョブズが、自分の子供には決してスマートフォンを与えなかったことはよく知られています。

我々は、頭を良くし、勉強や仕事の効率を上げたいなら、本当に大切なことに集中し、これまでは肯定されることも多かった「ながら」を止めなければなりません。

ところが、ロボットを作るための、個々の生徒の好奇心を無視した画一的な教育や、「ながら」でものごとを行うことで、学生達の頭が悪くなった結果、科学に興味を持たない人が多くなったと思います。それで、現在、ジェームズ・フリンの父親のような若者が多くなるという先祖返りが起こっているように感じます。

「カラスと魚の違いは?」と聞かれ、せめて、「飛ぶか泳ぐかの違い」と答えれば良いのですが、経験的に、「魚は食えるがカラスは食えない」という答は、フリンの父親世代の答です。しかし、今、そう答える若者が多そうな気がします。

※キョロキョロすると脳に快感物質を発生させる働きをする遺伝子が壊れていて、限りなく集中出来る人間が存在し、そのような人間が天才的な能力を発揮することがあります。そのような人間は、変人扱いされ、社会に適合出来ない場合がありますが、彼らが集中による人間の能力の可能性を示しているように思われます。二コラ・テスラが、1日13時間勉強したのは、彼が努力家でもあったのでしょうが、キョロキョロさせる遺伝子が壊れていて、限りなく集中出来たからと思われます。


以上です。

当ブログオーナー、KayのAI書籍です。

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2022年11月21日月曜日

メタバースと脳内チップ

 昨年(2021年)10月28日、マイクソロソフトを除くITの世界トップ企業4社を示す“GAFA ”  の一角であるフェイスブックが社名をメタ・プラットフォームズ(以下、「メタ」と略します)に変更しましたが、それにより、このメタという社名が意味する「メタバース」の重要性がますます認識されてきたと思います。

メタバースとは、オンライン上に構築されたVR(仮想現実)空間、あるいはそのサービスのことです。

そのようなサービスは、既に数多く存在しますが、メタは、全力を傾け、メタバースの覇権を目指すはずです。

それほど、これからの世界で、メタバースが重要なものだからです。

今回は、メタバース時代に備え、メタバースの中心的な技術であるVR(仮想現実)に関する興味深い話をします。


◆VR(仮想現実)

2017年8月に出版された、元・日本マイクソフト社長の成毛眞氏の著書『理系脳で考える AI時代に生き残る人の条件』(朝日新聞出版社)で、こんなことが書かれていました。

「最近でいえば、VRを体験しているかいないかは大きな違いだ」

この言葉には、「いまだVRを体験していない人はかなりまずい(時代に置いていかれる)」というニュアンスが含まれていると考えられます。これがもう4年以上、前のことです。

VRを体験するとは、現代では、ほぼ、VR用HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を頭に装着して何かを行うことを意味します。

しかし、では何を行うのかというと、今のところ、大半がゲームで、その他のコンテンツも若者向けのものがほとんどですので、VRを体験しているのは若者が圧倒的です。

メタバースはVRと共にあるものですので、メタバースに取り組むには、VRに馴染んでいることが有利というか、必須かもしれません。

とはいえ、ゲーム以外の「大人の用途」としては、例えば、オンラインのVR空間で会議を行うといった会社は、進歩的と言うよりは、遊び心がある会社といった感じかもしれません。

ところが、2020年10月に、メタが開発した(正しくはメタが買収したOculus社が開発した)「Oculus Quest 2(オキュラス・ クエスト・ツー)」という、高性能ながら、安価なHMDが発売されたことで状況が変わってきました。

Ocullus Quest 2は、人気があったOculus Questの後継機ですが、Oculus Questと違い、パソコンを必要とせず単独で使用出来、軽量で使い勝手も格段に良くなり、これで、HMDの普及が大きく進むと思われます。


◆メタが目指すもの

メタがまず目指すのは、メタが運営する世界最大のSNSであるFacebookのメタバース化です。

メタバース化されたSNSは、既にもういくつか存在しますが、Facebookをユーザーに支持される形でメタバース化することで、Facebookが最大のメタバースSNSになる可能性が高いでしょう。

そこでメタは、手始めに、Facebook内で比較的簡易なメタバースを提供し、Facdebookユーザーをメタバースに慣れさせようとするでしょう。例えば、企業が簡単に、メタバース内でリモート会議をするデモンストレーションをメタは公開しています。

実用的な用途として、教育分野では、教師と生徒がメタバース内で授業を行うことも簡単に出来るようになります。

しかし、これらはあくまでプロローグ(序章)であり、メタの計画はもっともっと壮大なものです。


◆フルダイブ型メタバース

メタが目指すメタバースは、この世界と全く同等の仮想世界の構築と、その中で人々が、現実世界のように活動出来るようにすることです。

簡単に言えば、デジタルの新しい世界を作ることです。

丁度、SF映画の『マトリックス』のような世界です。

夢のような話ですが、メタは本気で実現を目指していると思わます。

ところで、『マトリックス』シリーズの第1作『マトリックス』は、実に1999年、つまり、20世紀の作品です。

テクノロジーの進歩が急速化している現代でも、あれから20年以上も経つのに、いまだ『マトリックス』の世界は全く実現出来ていません。

『マトリックス』の世界と現代のVRの違いは何でしょう?

現代のVRは、HMDをつけた、視覚と聴覚だけの仮想世界です。なるほど、初めてHMDでVRを体験した人は、そのリアリティ(現実感)に感動することがよくあります。

とはいえ、現代のVRは、やはり、視覚と聴覚だけのものですので、やがて慣れ、そして、飽きるのです。

一方、『マトリックス』の世界は、五感全てで感じる仮想世界で、自分が現実世界に居るのか仮想世界に居るのか区別がつきません。喩えて言えば、鮮明な夢の中にいるようなものです。

五感全てで仮想世界に没入する技術をフルダイブ技術と言い、そのような世界に入ることを「フルダイブする」と言います。

そして、フルダイブしようと思ったら、脳とコンピューターを直接接続するしかありません。

『マトリックス』でも、そのようにしていました。

『マトリックス』では、仮想世界にフルダイブする人間の首の後ろに、コンピューターとの接続コネクターがあり、そこにコンピューターのケーブルを接続します。この場合、脳から首の後ろにかけて外科手術をして首のコネクターで接続出来るようにしているはずです。

しかし、現代でも、そんな手術が出来るほど脳の研究は進んではいませんし、仮に可能だとしても、正直、誰もそんな手術を受けたくないはずです。

ところが、そんな恐ろしい外科手術をせず、脳にチップを埋め込むだけで(それでもやりたくない人が多いでしょうが)、脳とコンピューターを接続することを実現しようとしているのが、イーロン・マスクが設立しCEOを務めるニューラリンク社です。ニューラリンク社では、猿を使った動物実験では、かなりの成果を上げているようです。しかし、人間で実験を行うとなると、倫理的規制が大きく立ちはだかります。


◆脳に取り付ける装置の人々の認識

脳に機械を取り付けて脳の力を拡張したり、あるいは、脳に機械を取り付けられた人間の心をコントロールするという発想は、かなり昔からあります。

現実的にも、脳神経と記憶装置を接続し、脳の記憶力を増大させる研究がMITメディアラボで行われているという話があります。

ただ、こういった研究が進むためには、一般の人々の理解を得ることも必要なのですが、一般の人々の、この分野の認識や理解は遅れています。

例えば、有名なSF作家だった平井和正氏原作の1963年の漫画『エイトマン』で、サイバーという名のAI(人工知能)が人類の征服を始め、サイバーは人間の脳に直径数センチの球体の装置を手術で取り付けて、その人間を操るというものがありましたが、現代人の多くは、脳に取り付ける装置に関して、まだ、そんなイメージを持っているのだと思います。

ところが、その『エイトマン』の続編の2004年の漫画『エイトマン・インフィニティ』では、AIサイバーが再び登場し、今度は、マイクロマシン(マイクロミニサイズの微小機械)を人間の首の後ろから注射器で血管に入れ、血流に乗って脳に到達したマイクロマシンが、血液中の金属成分やタンパク質を使って、脳をコントロールするチップを形成するというふうに進歩しています。

実際は、脳は、異物を中に入れない強固な防御機能を持っていますが、マイクロマシンより小さなナノマシンを脳内物質に擬態させて脳内に進入させる技術が研究されていますので、手術せずに脳内にチップを形成することも可能になるかもしれません。

一方、世界的に人気がある日本のSF小説・アニメの『ソードアート・オンライン』(2009~)では、頭にかぶった装置が、電磁波により脳のシナプスと量子的に共鳴することで、仮想世界にフルダイブしますが、今のところ、これは不可能です。

もし、このように、外部からの電磁波だけで脳をコントロール出来るなら、中国あたりが、人工衛星から、人間を支配する電磁波を送信しようとするでしょう。ただし、これも、いずれは可能にならないとも限りません(陰謀論かもしれませんが、既に可能であるという説もあります)。

今のところは、イーロン・マスクのニューラリンク社は、外科手術で脳に埋め込むチップにより、思考だけで外部装置を操作したり、脳で直接、インターネットに接続したり、また、脳にチップを埋め込んだ者同士が、テレパシーのように会話すること等を目指しています。

メタが、この分野に参入する可能性もあり、メタやイーロン・マスクなら可能と思われますが、1兆円も研究につぎ込めば、フルダイブ技術が急速に進歩するのではと言われています。

ただ、アメリカや日本のように人体実験を行うのが難しい国ではなく、人体実験を平気でやれる独裁国家が、アメリカの優秀な研究者を大金で雇い、先に完成させる可能性があります。


メタバースが未来を決める大きな鍵であることは確かと思います。

実際、世界はメタバースに飲み込まれつつあると述べる科学技術者、社会学者、経済学者も増えているように思われます。


以上です。

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2022年7月31日日曜日

AIが全てを監視する世界

 2010年にGDP(国内総生産)で日本を抜き、世界第2位になった中国は、いずれ、現在は圧倒的な1位であるアメリカ合衆国を抜き、世界一の経済大国になると言われています。

ところが、中国の政治経済の隠れた深刻な問題を指摘し、中国の成長が止まる、あるいは、破綻するとさえ言う政治学者や経済評論家等もいますが、現実には、中国は直実な経済成長を続けており(コロナ禍でもプラス成長でした)、軍事力の拡大も顕著です。

一党独裁制の社会主義国家である中国では、民意を問う必要がなく、政府の決定は直ちに実行されますので、指導者が優秀であれば、効果的な政策を、何者にも妨げられず実行出来、進歩はとても早いのです。

そして、中国の指導者は優秀で、早い時期からITの重要性を深く理解し、全力を上げて高度なITの導入を進め、今や中国は強大なデジタル国家と化しています。


◆膨大な監視カメラは何のためにあるか

今日、日本でも、多くの場所に監視カメラが設置されています。もちろん、それは、会社や店舗等の内部あるいは周辺といった、妥当性が感じられる場所であることがほとんどです。

ところが、中国では、どこにでも・・・それこそ、「何のためにこんな所に?」と思うほどの場所にも監視カメラが設置されています。

これを当局(中国の事実上の独裁政党である中国共産党の人民管理部)による国民の監視と捉えるのは、半分正解ですが、それだけでは、重要なポイントを見逃しています。

アメリカや日本等の民主主義国家では、政策の実施には国民の賛同が必要で、例えば、日本政府が、原爆を持つことが必要と判断しても、民意が得られなければ、原爆を持つことは出来ません。

民主主義国家では、平和で強い国とは、政府と国民が信頼し合い、国民の声が政治に反映される国であると考え、それを実現するのが選挙であり、選挙こそが、国民が政治に参加することであると言われます。

ところが、選挙のない社会主義国家である中国が、ITの高度な活用で民主主義国家を超えたのではないかと思われます。

それには、AI(人工知能)が大きな役割を果たしています。

中国の監視カメラは、監視目的だけではなく、AIの活用のためにあります。

監視カメラにより国民のあらゆるデータを収集し、このデータに対し、AIが分析を行えば、国民のコントロールだけではなく、政策の決定・実施のための重要な手がかりが得られることを、中国の指導者は理解しています。

つまり、現在の中国国民のあらゆる属性を明確に把握出来、どうすれば国民を効率的に管理し、そして、動かせるかが分かるのです。

一方、民主主義国家では、選挙によって選ばれた政治家の公約が国民の民意と了解され、選挙こそが政治に民意を反映させる方法であると考えられています。

けれども、選挙で選ばれた政治家が必ずしも公約を守るとは限りません。

また、国民が、あまり公約を理解したり、重要視せず、単に有名人だからという理由で投票することが多くあります。

一方、中国では国民投票の選挙はありませんが、AIは選挙よりも正確に民意を推測出来、それを政府は有効に利用します。

つまり、中国では、国民は知らないうちに、政府の都合の良いように政治に参加させられていると言えます。

中国は、AIの活用により、「選挙に参加することが政治に参加することである」と言う民主主義を笑うほどのレベルに来ているのかもしれません。


◆シンガポール

独裁制は、効率においては、民主制を上回ることは中国の例でも分かります。

その利点を生かして発展したのがシンガポールです。

十年近くも前に、当時既に世界的に注目されていた日本のデジタルソリューション企業であるチームラボが、シンガポールでの大イベントに参加した後で、先進的な思想・理念を持つことでも知られているチームラボ社長の猪子寿之氏が、「世界で最も格好良い都市は、ニューヨークでも東京でもなく、シンガポール市(建前上の首都。シンガポールは1つの都市国家であるため、実際は首都はない)だ」と断言しましたが、実際、シンガポール市の人々の収入は、ニューヨーク、東京を超え、シンガポール(国家)の1人当たり国内総生産(GDP)は世界2位です。

そして重要なことは、シンガポールは建前上、民主主義国家ですが、『準独裁政治体制』と言われ、実質では、中国に近いと思われます。

シンガポールもまた、独裁政治のメリットを十分に生かし、そして、強いIT指向があるという点でも中国と似ています。


◆イーグル・アイ

IT技術がますます発展するこれからの社会や政治がどうなるかを理解するために、是非見ておくべきアメリカ映画があります。

それは、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮の2008年の映画『イーグル・アイ』です。

スピルバーグ作品としては地味で、スピルバーグの他の作品と比べ興行収入もそれほどではないのですが、まだスマートフォンが普及していない時代に、AIが管理する未来社会の様子を現実的に描いています。

全米中のあらゆる場所に設置された監視カメラから得られる映像・音声をAIが収集・分析し、さらに、機密情報を含む最大限の情報にアクセス出来る高度AIは、国家の状況を完全に把握しつつ、未来に起こることを高精度で予測し、リスクを事前に察知して、最適な問題解決策を提示します。

ある時、アメリカ合衆国を管理する最高位のAIである「アリア」は、アメリカの軍隊のトップ、即ち、最高司令官である大統領、そして、副大統領、国防長官らを、アメリカの安全にとってリスクと判断し、彼らを抹殺する「ギロチン計画」をホワイトハウスとは独立した米国組織に提示し、合衆国憲法に則って実行の承認を得ます。

注意すべきことは、これが、一部のSF小説にありがちな、AIが偏見を持っているとか、AIが一部の権力者の都合で動いているのではないということです。

本当にAIの判断は正しく、アメリカのトップの抹殺は、アメリカのために良いことであるという論理性や根拠があるのです。

そして、あらゆる機械がインターネットに接続された世界で、それらの機械(一般的にはIoTと呼ばれます)を自在に利用出来るアリアの実行能力は強大です。

これらは、現代のテクノロジーで十分に起こり得ると思われます。

この作品を見てから、中国のことを考えると、我々は未来世界を予測出来ますが、ディストピア(ユートピアの反対。暗黒郷)を招くことも予想出来るのです。

『イーグル・アイ』の最後では、「安全のための過ぎたシステムはかえって安全を脅かす」と述べます。


以上です。

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