現在はまだ誤解されていることが多いのですが、AIは思考するマシンではなく、推測するマシンです。
そこで、AIが推測するものであることがよく解るよう、野球の試合において、AIにバッターを攻略させるお話をしようと思います。
サッカーのゴールキーパーの攻略も同じように出来るはずです。
◆バッター攻略に必要なこと
一流のバッターと対戦する時には、ピッチャーは、単に速い球を投げるとか、切れ味の鋭いカーブを投げるだけでなく、頭を使う必要があるはずです。
頭で戦いを有利にするには、バッターの情報が必要です。
その情報によって、バッターにどんな球を投げれば、バッターがどう反応し、結果がどうなるかを推測する訳です。
それは、ピッチャーだけでなく、捕手や監督、あるいは、コーチの仕事であると思います。
そして、推測するマシンであるAIは、人間以上に、バッターの反応を推測出来る可能性があります。
バッターを攻略するためには、そのバッターの一般的な特性が分かっているだけでは足りず、バッターの微妙な癖を知る必要があります。
では、バッターの癖を知るにはどうすれば良いかと言いますと、当たり前ですが、バッティングを見て分析します。
とはいえ、10試合や20試合、そのバッターのバッティングを見ても、なかなか癖を正確に見抜くことは難しいと思います。
確かに、バッターの癖とはどのようなものかをよく知っている経験豊かな捕手や監督であれば、見る数は少なくて済むでしょうが、それでも、素人が思うよりは多く見る必要があるはずです。
100試合分や200試合分以上の情報が必要かもしれず、それでも足りないかもしれません。
しかも、人間は忘れますので、それを補うだけの数を見る必要があります。
だから、バッターの癖による攻略というのは、実際には難しいと思います。
そこでAIの出番です。
【補足】バッティングデータの収集に関し、いずれ、AIはバッティングの映像ビデオを見れば十分になるでしょうし、それは現在でも不可能ではありませんが、一応、今は、記録係の人がビデオを見て、「ピッチャーの球=120km/hのフォーク。バッターの動作=スイング。結果=三振」のように、文字で入力するとします。
◆AIの人間に対する強みとは
AIには、当然ですが、コンピューターの強みが全部あります。
人間に対するコンピューターのよく知られている強みが、「速い」「忘れない」です。
AIは、あるバッターのバッティングを200試合分見たら、その200試合のバッティングを全部、正確に覚えています。
そして、もう1つのメリットの「速い」が重要です。
人間なら、あるバッターの200試合分のバッティングのデータを見ようと思ったら、かなりの時間(数日、あるいは、数週間)かかるかもしれません。
詳細に分析しながら見たら、それこそ、どれだけ時間がかかるか分かりません。
しかも、人間は、見たもののうち、かなり多くを忘れてしまいます。
しかし、コンピューターなら、その10倍の2000試合分でも、おそらく数秒で、詳しく分析しながら見て、1つも忘れません。
◆AIは人間の脳を真似ている
ところで、人間はバッティングをどう分析するかと言いますと、当然ながら、頭を使うのですが、正確には、脳を使います。
脳がどんな仕組みで働くかは、以前はほとんど解らなかったのですが、今日では脳の研究が進み、いくらか解るようになってきました。
そして、脳科学者と数学者が協力して、脳の働きを真似した論理的なモデルを作りました。その代表的なものがニューラルネットワークと言われているものです。
さらに、コンピューターの発達により、ニューラルネットワークをコンピューターでシミュレート(模倣)出来るようになりました。
この、ニューラルネットワークをコンピューターでシミュレートする「ニューラルネットワークシステム」が今日のAIの土台になっています。
つまり、今日のAIは、人間の脳を参考にして作られているのです。
ただし、実際は、脳の仕組みの詳細は、まだまだほとんど解っていません。
思考やひらめき・直観、フィーリングなどといった高度な機能はもちろん、実際にはほとんどの脳の機能がまだ研究段階で、今はなんとか、基礎的な部分が分かっているだけです。
ですから、ニューラルネットワークの細かい部分は、あくまで人間が(ただし、飛び切り頭の良い人が)考えたものです。それは、日々、進歩しています。
ニューラルネットワークを理解したり、作るためには高度な数学が必要です。
日本の高度なAI開発会社では、現役の東大生等、頭の良い人を雇っているという話があります。
また、それで作ったニューラルネットワークをコンピュータープログラムにするには、高度なプログラミング能力が必要です。
しかし、作成済みのニューラルネットワーク・システムを利用してAIを作るだけなら、数学や高度なプログラミング能力は不要で、ある程度のプログラミングが出来ればAIを作れます。
さらに、今は、プログラミングも不要なニューラルネットワーク型AI構築アプリが次々に登場し、プログラミングが出来なくても、言ってしまえば誰でもAIを作ることが出来るのです。
◆AIと人間の役割分担
AIがバッターの癖を見抜くというのは、もっと正確に言えば、AIは、バッターの癖を推測する訳です。
何度も繰り返しますが、AIに出来ることは推測だけなのです。
ただ、その推測はかなり正確に行えます。
AIは、推測したバッターの癖(沢山あるはずです)が、それぞれ、どの程度確からしいのかを、確率で(例えば80%)示します。
それで解ったバッターの癖から、どう攻略するかは、あくまで人間が考えることです。
AIは、あるバッターのバッティングを見れば見るほど。つまり、データを得れば得るほど、癖が正確に分かります。
しかも、たとえ1万試合分のバッティングでも、普通のパソコンで数分~数十分、高級機なら数秒以下で見ることが出来ます。
AIは、バッティングデータを取り入れると、ニューラルネットワークシステムを使い、バッティングを分析し、そのバッターの癖を推測します。
その後、試合の中で、AIに、こんな質問をしたとします。
「ランナーは2塁、カウントは2ストライク1ボールで、中程度の速球派の右ピッチャーが内角低めのストライクゾーンに速球を投げると、結果はどうなるか」
すると、
「センターにゴロで返す確率53パーセント。ヒットになる確率28パーセント」
と答えたりします。
AIにいろんな質問をし、最も望ましい結果が期待出来る球を投げれば良いのです。
SFでは、昔からこのような場面があったような気がします。
それがいよいよ実現し、そして、それを誰でも行えるのです。
以上です。
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