昔からあることですが、アニメを見ている子供を見て、母親が「下らないアニメなんか見て!」と叱責します。
しかし、そのアニメが、子供の将来に良い影響を与える素晴らしいものでないとは限りません。
この母親の問題は何かと言いますと、自分で体験せずに、価値判断をしたことです。
人間は、体験をしないと、良いか悪いか分からないのに、この母親は、体験をしないまま、誰か(テレビや先生)の意見を受け入れたわけです。
これまでは、それでも誤魔化しが効きましたが、特にAI(人工知能)の時代では、それは拙いということをお話しようと思います。
◆これまでの何にも似ていない新しいもの
自分で体験しないと何も分からないことは誰でも分かっています。
例えば、海外旅行、スキューバダイビング、坐禅・・・経験すれば良いかもしれないと思いつつ、「別にやらなくても、そんなに変わらない」と思い、他人の経験談をテレビなどで見聞きして、分かった気になっていました。
しかし、今後は、経験をしないことがリスクになる可能性があります。
例えば、グーグル検索について考えてみましょう。
昔なら、何かを調べる時、図書館など、あちこちに出かけ、沢山の本や昔の新聞を調べ、電話をかけまくって、やっと分かった・・・いや、それでも、分からないかもしれないことを、グーグル検索を使えば、かなりのことが数分で分かってしまいます。
確かに、苦労して調べることの価値もありますが、今、何でもかでも、自分の足で調べるのは愚かと言えると思います。
ところで、グーグル検索や、その他の既に広く使われているインターネットサービスは、昔からあるものの代替であり、分かり易く、特に進取の気性がある人でなくても利用しています。
しかし、従来は想像もしなかったものがどんどん現れてきています。AIやVR(仮想現実)がそうです。
それらは過去の何かに例えて理解することは出来ず、それを直接体験しない限り、全く分からないばかりか、存在にすら気付きません。
それで、知らないうちに時代に取り残されます。
◆分かったような気になる恐さ
少し前、『鬼滅の刃』というアニメ映画が、驚異的にヒットしました。
すると、テレビのワイドショー番組で、『鬼滅の刃』は何が良くてヒットしたのかということを、顔なじみのコメンテーターが、自信満々で解説します。
それを見て、視聴者は「なるほど」と納得します。
しかし、『鬼滅の刃』の、そんな解説は全部嘘です。
コメンテーターに解説出来るような理由で、これほどヒットするなら、アニメ製作会社は苦労しません。
また、たとえ、コメンテーターが、実際に映画を見、本当に良いと思った上で解説していたとしても、彼らに映画の良さを説明出来ないのです。
つまり、いくら良いと思っても、それを言葉で説明することは、ほとんど不可能なのです。
そもそも、映画の製作者ですら、その映画の良さを10%も解説出来ないなんて普通なのです。
例えば、男の子に、自分が好きな女の子について、「その子のどこがいいの?」と尋ねたら、「え・・・と、顔とか、優しいところとか」と、曖昧なことを言います。この男の子は、その女の子に何か特別なものを感じてはいるのですが、その「何か」を言葉で言うことは出来ません。
そして、それは、大人でも同じことなのです。
何か素晴らしいことを体験し、これはと思う人を仲間にしようと、その素晴らしさを力説したところで、せいぜいが、「君がそこまで言うなら、良いかもしれないね」と言う程度ではないですか?
こんなことを、しっかり認識した方が良い時代です。その理由を次項でお話します。
◆曖昧な概念を論理化・数値化するAI
ところが、AI(人工知能)は、人間にとってはふわっとした「好き」を論理的に理解してしまいます。そんな仕組みなのです。
「好き」だけではありません。あらゆるアナログな感覚やノウハウを、精密にデジタル化します。
「銀座No.1ホステスの社交術」なんてベストセラー本があったように思います。
No.1ホステスのように、勘と経験と卓越した思考力で、どんな対応が相手にとって心地良いか、高度に掴める人がいます。
しかし、そのノウハウは、やっぱり言葉で説明出来ないのです。
それが証拠に、そんな本を読んでも、No.1のサービスは出来ません。
しかし、AIは、それを、論理化出来るのです。
もう何年も前に、ドワンゴ創業者の川上量生氏が「いずれ、人間はAIとだけ付き合うようになる。AIの方がずっと性格が良いですから」と言ったのは、まさに正しいのです。
人間には、ふわっとした雰囲気でしか分からないことを、AIは数値化、理論化出来ます。
そして、その理論を応用出来るとしたら、これは、よく考えると恐ろしいことです。
例えば、AIは、人間を完璧に騙すことも可能なのです。
人間の詐欺師など、足元にも及びません。
騙す相手は重要な個人や大衆、あるいは、全人類などが考えられます。
◆AIに負けない方法
しかし、本来、人間がAIに劣るはずがありません。
AIには分からないような価値でも、人間なら分かるのです。
大脳の160億のシナプスを同時並行的に動かし、さらに、研究者によればシナプスに関係する器官を量子的に働かせるような真似がAIに出来るとは、とても思えません。
けれども、学校では、交換可能なロボットを作る教育がされ、人間の本当に重要な力を殺してしまっています。
人間のロボット的な性能(計算力や記憶力)は、大昔のコンピューターでも人間にはるかに優ります。
よって、ロボット人間ではAIに全く敵いませんので、そんなロボット人間はAIに支配されるようになります。
では、人間が持つ能力を発揮するにはどうすれば良いでしょうか?
それには、まず、偏見のない目で見、人間の優秀な知覚能力をフル回転させて経験することです。
それには、進んで体験する自主性が必要です。
◆真っ新な目で見る
FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグが初めて体験したVR(仮想現実)のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)は、モノクロで解像度も低い、今のものと比べれば貧弱なものでしたが、それでも彼は、偏見のない真っ新な状態でこれを進んで体験し、知覚能力をフル回転させることでVRの可能性に驚愕し、すぐに、VRの最先端を行っていたオキュラス社を買収します。
しかし、いかにザッカーバーグでも、自分で体験しなくては分からなかったのです。
そして、多くの人は、「VRなんて子供のゲーム機のものだろう。少しも重要ではない」と決めつけて体験しようとしません。
ところで、電話やテレビを見たことがない人間など、世界にはいくらでもいます。
そんな人達に、テレビや電話の良さを説明しても無駄です。
自分で使うしか、理解する方法はありません。
そして、そんな人達が「テレビや電話は人間を堕落させる有害で不要なものだ」と言い、積極的に試そうとしなければ、我々は、彼らを愚かだと思うでしょう。
しかし、VRを積極的に体験しようとせずに、「そんな下らないもの」と馬鹿にしている人も全く同じなのです。
見もせず、体験もせずに否定するのは、老人と相場が決まっていたはずが、戦後のロボットを作る教育のせいで、若くても(子供でも)優等生ほど、その傾向が強くなっています。ロボット人間は、教科書とテレビニュースに出ないものは価値がないと思っています(試験に出るのはその範囲までですから)。
そんな人達は、これからはAIの奴隷になるしかありません。
そうならないコツは、優等生ではない若い人達が良いと言うものを、馬鹿にしたくなるのをぐっとこらえて、自分で味わってみることです。
子供に「そんな下らないアニメ見て」と言う母親は、やっぱり時代遅れかもしれません。
以上です。
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